007号 練習の最後に「MVP」と「MVC」を選ぶ理由|少年サッカーで大切にしたい「結果」と「プロセス」
「子どものサッカーでは、結果とプロセス、どちらを大切にすべきなのか?」
育成年代のサッカーに関わっていると、一度は考えるテーマではないでしょうか。
レアルコラソンでは、練習の最後に、その日の「MVP」を選んできました。そして10月から、もうひとつの表彰「MVC」が加わります。
「MVCって何?」 「どんな基準で選ぶの?」 「MVPとは何が違うの?」
今回は、この取り組みを始めた李コーチに話を聞きながら、MVPとMVCという2つの賞に込めた思い、そしてコラソンが考える「結果」と「プロセス」の関係についてお伝えします。
MVP ―― その日、一番「結果」をつかんだ選手
MVPは「Most Valuable Player」の略。その日の練習で、最も活躍した選手に贈られます。
選考基準について尋ねると、李コーチの答えはとてもシンプルでした。
「MVPは、みんなが思い浮かべる基準そのままでいいと思うんです。その日の練習で一番活躍した選手。周りのみんなが『今日すごかったね』『いいプレーをしていたね』と自然に思える選手ですね」
ゴールを決めた。相手から何度もボールを奪った。1対1で負けなかった。練習してきたプレーができるようになった。
その日の勝負の中で、目に見える成果をつかんだ選手を称える。それがMVPです。
MVC ――「コラソンらしさ」が一番輝いた選手
10月から始まるMVCは、「Most Valuable Corason」の略です。
「C」は、スクール名にもある「コラソン」。
コラソンが大切にしているのは、誠実さ、心の熱さ、心の優しさ、そして一人ひとりの個性です。
この4つを子どもたちの中で育てていきたい。そんな思いから生まれたのがMVCです。
その中で、まず光を当てたいのが「挑戦する姿」です。
「目標に向かってチャレンジすること。その子がどんな工夫をして、何を考えて、どう行動したか。結果には大きく表れなかったかもしれない。でも、タフに、粘り強く向かっていった。それを楽しんで続けられることが、いつか大きな成果につながると信じています。その姿を一番見せてくれた選手を、MVCとして選びたいんです」
うまくいくかわからなくても、何度でも挑戦する「心の熱さ」。
手を抜かず、最後までやり切る「誠実さ」。
言われた通りにするだけではなく、自分なりの方法を試してみる「個性」。
こうした一つひとつの行動に光を当てることで、子どもたちに「チャレンジするってこういうことなんだ」「上手くなるために工夫するって、これでいいんだ」と感じてもらいたいと考えています。
そしてもうひとつ、MVCで大切にしたいのが「心の優しさ」です。
転んだ友達に手を差し伸べる。うまくいかずに落ち込んでいる仲間に声をかける。誰に言われるでもなく片付けを手伝う。
サッカーの技術とは直接関係がなくても、仲間を思いやる行動は、チームにとって大切なものです。
周りを大切にできる選手は、周りからも大切にされる。そして、そうした選手が増えることで、チームそのものも強くなっていく。
そんな行動にも、MVCを通してしっかりとスポットライトを当てていきます。
少年サッカーは「結果よりプロセス」なのか?
前回のコラムでは、結果目標とプロセス目標の向き合い方を取り上げ、「プロセスを大切にしよう」とお伝えしました。
そうなると、
「結果を評価するMVPは、その考え方と矛盾しないの?」
と感じる方もいるかもしれません。
「育成年代は結果より過程が大事」 「いや、勝つこと、結果を出すことが大事」
少年サッカーでは、この2つが対立するものとして語られることがあります。
それでもコラソンが、あえてMVPとMVCの両方を設けるのはなぜか。
李コーチは、そもそも「結果」と「プロセス」を対立するものだとは考えていません。
「結果が取れなかったから、過程を褒めて慰める。そういうことじゃないんです。結果を取ること、勝つことはものすごく大事。勝ちを取りにいく強さは、気持ちの面も含めて絶対に緩めちゃいけない。勝つこと、できるようになることが、大前提の目標なんです」
そして、こう続けます。
「よく『負けて学ぶことが多い』と言いますよね。でも僕は、勝って学ぶことのほうがずっと多いと思っています。自分との勝負に勝った瞬間、相手との勝負に勝った瞬間に、『これだ!』と気づく。その瞬間が自信になって、自分を信じられるようになっていく。だからこそ、勝つため、できるようになるために本気で頑張る強さを、一番に求めたいんです」
「勝ちたい」 「もっと上手くなりたい」 「できるようになりたい」
そう思うことは、子どもたちが成長するための大切な出発点です。
では、どうすれば勝てるのか。
勝つためには、どんな成長が必要なのか。
その成長のためには、今日どんなチャレンジをすればいいのか。
こう考えていくと、「結果」と「プロセス」は一本の線でつながっています。
目指す結果があるから、必要なプロセスが生まれる。そして、そのプロセスを積み重ねるからこそ、結果に近づいていく。
だからこそ、「結果か、プロセスか」ではありません。
道の先でつかんだ成果を称えるのがMVP。
そこへ向かって、一歩ずつ進む姿を称えるのがMVC。
2つの賞は、違うものを評価するためにあるのではなく、子どもたちの成長を一本の道として捉えるための、2つの視点なのです。
サッカーを「楽しむ」って、どういうこと?
ここまで読むと、
「なんだか厳しそう。楽しくサッカーできるのかな?」
と思われる方もいるかもしれません。
もちろん、私たちは子どもたちがサッカーを楽しむことを何より大切にしています。
ただ、コラソンが考える「楽しさ」は、単に楽なことや、ずっと笑っていられることだけではありません。
できなかったことが、少しできるようになった。
昨日よりも良いプレーができた。
何度も失敗した末に、「できた!」という瞬間が訪れた。
自分の成長や成功を本気で追いかけ、その手応えを感じること。
そこに、サッカーの大きな楽しさがあると私たちは考えています。
だから、勝つことと楽しむことも、決して別々ではありません。
「できるようになりたい」と本気で取り組み、その途中で少しずつ自分の成長を感じていく。
その積み重ね自体が、サッカーを長く楽しむための力になっていきます。
「長い時間をかけて、0.3歩進んだ」を全力で認めたい
とはいえ、子どもの成長は、毎回わかりやすく「1歩」進むわけではありません。
子どもたちが取り組んでいるドリブルやキックは、大人が思っている以上に難しいものです。
李コーチは、こんなふうに話します。
「まだ体が思うように動かない中で、何度も何度も工夫しながらチャレンジしている。頭も体もフル回転させて、しんどい中で踏ん張っている。それって本当にすごいことなんですよ。だから、ほんの少しでも自分の描いた形に近づけたら、『できなかった』で終わらせるんじゃなくて、チャレンジしたこと、0.3歩進んだことを、できる限り細かく褒めてあげる。長い時間をかけてつかんだその0.3歩を、僕らは全力で認めてあげなきゃいけない」
昨日までできなかったことが、今日ほんの少しだけできた。
自分なりに考えて、やり方を変えてみた。
失敗しても、もう一度チャレンジした。
その「0.3歩」を自分自身で感じられるようになることが、次の挑戦につながります。
そして、このプロセスそのものが上手くなれば、以前は10分かかっていた一歩を、5分で進めるようになるかもしれません。
「それは、“努力が得意になる”ということなんです。自分を知って、目標に近づく方法を自分なりに見つけられる。その力は、サッカーだけじゃなく、この先どんなことにも生きていくはずだから」
私たちがMVCを通して育てたいのは、まさにこの力です。
MVPとMVCを通して、子どもたちに伝えたいこと
MVPは、勝負の中で結果をつかんだ選手へ。
MVCは、結果を目指す道の途中で、熱く挑み続けた選手、誠実にやり切った選手、自分らしさを発揮した選手、そして仲間を思いやった選手へ。
どちらが大切なのか、ではありません。
結果を本気で目指すから、プロセスに意味が生まれる。 プロセスを大切に積み重ねるから、結果へと近づいていく。
MVPとMVCを通して、子どもたちが結果をつかんだ喜びだけでなく、「どうやってそこまでたどり着いたのか」にも目を向けられるようにしたい。
そして、たとえ今日進めたのが「0.3歩」だったとしても、その小さな前進を自分で認め、次の挑戦につなげられる選手になってほしい。
それが、MVPとMVCという2つの賞に込めた、私たちの思いです。
お話を聞いた人
李 成俊 LEAL CORASON FOOTBALL SCHOOL 代表・テクニカルアドバイザー
JFA公認PROライセンス保持。Jリーグ下部組織、東京国体、ブータン世代別代表などで監督を歴任。現在は育成年代の選手育成に携わり、「自分で考え、自ら挑戦できる選手を育てる」ことを理念に指導を行っている。
(取材・編集:見澤 拓歩)
